「去り際にこそ、武道の本質があらわれる」

昨日、2022年9月に開場した愛知県体育館(ドルフィンズアリーナ)で、最後の稽古を終えました。この体育館は、老朽化のためにまもなく閉館となりますが、名古屋道場を立ち上げた当初から稽古場として使用してきた場所であり、私にとって非常に感慨深い場所です。

偶然にも、この体育館の館長が私の幼馴染だったこともあり、これまでさまざまな面でご配慮いただき、本当に助けられました。この場を借りて、心より感謝申し上げます。

最後の稽古の前に、門下生たちに次のような話をしました。


「皆さんもご存知のように、私は毎年5月と11月にイタリア・ミラノの道場に指導に行っています。現地では、できるだけ心身を整えた状態で稽古に臨みたいという思いから、キッチン付きのアパートを借りて滞在しています。長時間のフライトの後は、やはり自分で作る日本食が一番心を落ち着かせてくれるのです。

そんなある日、イタリア道場の副本部長を務める黒帯の女性から、こう聞いたことがあります。『私は滞在先をチェックアウトする際、必ずチェックインしたときよりも綺麗にして出ます』と。その言葉に強く感銘を受けて以来、私も同じように毎回アパートを徹底的に掃除してから出るようになりました。

オーナーがその部屋を見て『やはり日本人は違うね』と思ってくれたら、それはとても誇らしいことだと思います。それは、単なる掃除ではなく、日本人としての誇りや文化、心の在り方を表す行動でもあるのです。

今日が最後となるこの愛知県体育館でも、私は同じ想いでいます。これからみんなで雑巾がけをして、この場所を気持ちよく締めくくりましょう。多くの団体がこの施設を利用していますが、私たちが稽古を終えた後のこの道場を見て、関係者の方々が『やはり武道をやっている人たちは違うね』と感じてくれたら、それは武道家として大変誇らしいことです。

こうした心遣いや配慮は、武道の稽古と同じくらい大切なものです。そして私は、皆さんがこれを稽古の場だけに留めず、学校や職場、日常の中でも自然とできるようになってほしいと願っています。

例えば、道に落ちているゴミを見過ごさず拾って捨てること。困っている人や弱い立場の人に寄り添えること。自分の損得ではなく、他人のために行動できること。そういった小さな行動の積み重ねが、人としての価値をつくります。

そして、そうした行動がやがて意識しなくても自然にできるようになったとき、きっと周りの人はこう言うでしょう。『〇〇くんは、やっぱり他の人とは違うね』と。

それこそが、武道を学び続ける意味の一端なのだと、私は思っています。」

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