「負けたのに、なぜそんなに嬉しそうなの?」
以前、イタリアで開催された空手大会で、こんな出来事がありました。
女子組手のあるカテゴリーで、3名による総当たり戦を予定していました。
ところが、そのうち2名が口を揃えて、
「Nちゃんは強すぎるから、出場したくない」
と言ってきたのです。
確かにNちゃんは華奢な体格ですが、回し蹴りはとても速く、力強い。
怖気づいてしまう気持ちも、よく分かります。
でも私は、空手の大会で一番大切なのは「勝つこと」ではないと思っています。
トーナメントでは、初戦で前回の優勝者と当たることもあります。
反対に、決勝まで強い相手と当たらず、そのまま優勝することもあります。
だから、初戦で負けたから「ダメ」なのでもない。
優勝したから「すべて良し」でもない。
大会というのは、勝敗以上に、
「自分がどこまで逃げずに挑めたか」
が問われる場所だと思っています。

人生でも同じです。
社会に出れば、どう考えても自分が不利な状況や、八方塞がりに思える場面に遭遇することがあります。
そんな時、
「怖いからやめる」
「自分には無理だから逃げる」
のではなく、
目の前のことに全力で立ち向かう。
私は、そういう**「胆力」**を大会を通して身につけてほしいと思っています。
もちろん、最後に勝者になれるのは一人だけ。
それ以外の選手は、必ず「負け」を経験します。
だから当然、
「悔しい!」
と思う。
でも私は、その「悔しい」という感情を、とても大切にしています。
悔しさは、次に進むための大きなエネルギーになるからです。
ところが、大会が終わった後。
負けたにもかかわらず、とても清々しい顔をしている子が、ほんの数名います。
最近、その子たちに共通するものに気づきました。
それは、
誰よりも稽古をしている。
そして、
稽古中、誰よりも真剣に取り組んでいる。
ということです。
だから大会で、
「完全燃焼」
できる。
勝ったか負けたかではなく、
「自分の持っているものは全部出した」
「これ以上はできなかった」
と、自分自身で納得できる。
だから試合が終わった時、
「お疲れ!よく頑張った!」
と、自分自身に心から言える。
そして、自然と顔がほころぶ。
私は、この感覚を門下生たちに早く経験してほしいと思っています。
なぜなら、完全燃焼した時に得られる心の充実感は、勝敗とは別の、何にも代えがたいものだからです。
そして、完全燃焼には、もう一つ大きな意味があります。
一度すべてを出し切る。
だからこそ、次の挑戦では新しいものを吸収できる。
逆に、
「あれをやっておけばよかった」
「もっとできたはずだ」
という思いを残したままだと、その心残りが次の挑戦にもついてきます。
だから私は、
「勝つこと」よりも「出し切ること」。
そこに大きな価値があると思っています。
まだ人生で一度も、
「自分は完全燃焼した」
と思える経験をしたことがない方。
一度、ガムシャラに何かに打ち込んでみませんか?
空手でなくてもいい。
仕事でも、勉強でも、スポーツでもいい。
本気で取り組み、すべてを出し切った経験は、きっと自分自身を一皮むいてくれます。
そして、今までの自分より、ほんの少し大きな自分に出会えるはずです。
完全燃焼。
私は、空手を通じて、そんな経験を一人でも多くの人にしてほしいと思っています。

